税務調査と聞いて怖い印象を持つ人は多いです。
- 強面のおじさんが事務所応接室の机に脚をのせて何やら怒鳴ってくる
しかも怒鳴り過ぎて何言っているのか聞き取れない - 警察の取り調べ室のような狭い場所に閉じ込められてネチネチと回りくどい質問攻めにあう
「もう調べはついているんだ」とか言われて社長がビクビクする - テレビドラマのようにいきなり事務所に乗り込まれ、モノを勝手に漁られる。
屋根裏部屋や隠し地下室から金塊や札束がザクザク出てきて「これが証拠だ~」と調査員が叫び、社長膝から崩れて泣く
このような印象もあるかもしれません。
実際の税務調査はこのように脅されたり、閉じ込められたり、勝手に事務所内を漁られることは基本的にありません。
一般的な税務調査の目的は「指導」です。
間違っている部分があれば見直せば問題ありません。
「税務調査は警察の家宅捜査に近い」と思っている人もいますが、基本的には違います。
近くの役所職員が分からない部分の質問に来るイメージを持っていれば大丈夫です。
ただ、すべての税務調査員が必ずしも善人であると限らないのも事実。
まずは税務調査とは何かを知る必要があります。
税務調査は計算ミスや申告漏れを調べる調査
税務調査は、
- 計算ミスがないか
- 申告漏れがないか
- 納税者から提出された申告書の内容が正確かどうか
を確認する調査です。
日本は申告納税制度で、納税者が自ら税金を計算し、申告、納付します。
そのためすべての人が正しく税金を計算し、申告、納付しているとは限りません。
たまたまミスをすることもあれば、故意に不正する人もいるでしょう。
「分からないから」とか「面倒だから」という理由で申告しない人もいます。
ミスや不正、申告しない人がいた場合、正しく申告、納付している人と不公平が生じます。
仮に間違っていた時は「ここ間違っているよ」「こういう処理だよ」と指導し、申告していないのであれば申告するよう指導するのが税務調査です。
税務調査は税務署の調査員と対面で行うイメージをもつ人が多いでしょう。
実際は電話や書面連絡、納税者が税務署へ訪問し、申告内容を訂正するタイプの税務調査もあります。
所得税の申告に関する税務調査の場合、実際に調査官が事務所や自宅に来る税務調査の9倍の件数が、電話や書面連絡、納税者が税務署へ訪問して申告内容を訂正するタイプです。
税務調査を受ける場所に規定はないので、税務調査の場所は住所地などの納税地である必要もありません。
顧問税理士がいるのであれば顧問税理士の事務所や貸会議室でも問題ありません。
ただ、税務調査には「帳簿書類」等が必要なので、税務調査の実施場所を別に指定するのであれば、「帳簿書類」を移送する必要があります。
また、税務調査の実施場所はあくまで調査官との調整・合意が必要です。
事務所や自宅、管轄の税務署も東京だけど税務調査は沖縄でやりたい、だと合意を取れない可能性が高いです。
税務調査は基本的2種類「任意調査」と「強制調査」
税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類があります。
裁判所の令状があれば強制調査、それ以外は任意調査です。
【任意調査】
一般的な税務調査のほとんどが任意調査です。
ただ、厳密には「任意」ではなく、税務調査を断ることはできません。
調査官は税金に関する質問を納税者に行う「質問検査権」があり、同時に納税者には「受忍義務」があります。
このため、調査官が質問したことに対して何も答えない、嘘を答えた場合は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則もありますので注意しましょう。
税務署職員から帳簿書類などの提出を求められた時に、正当な理由なく提出を拒むこともできず、黙秘権も認められていません。
調査官からの質問には応じなければならず、「任意」だからといって断ることもできません。
任意調査の場合、原則、税務署からは事前に「税務調査しますよ~」という事前通知があります。
- 実地調査を行う旨
- 調査対象となる税目
- 調査対象となる期間
上記の3点を調査官は事前に電話等で伝えてきます。
もし顧問税理士がいるのであれば、事前通知は顧問税理士にいく場合もあります。
税務調査で調査される期間は原則5年。
ただ実際の税務調査ではほとんどの場合3年の調査で、その調査期間に何らかの不正があった場合に調査期間が5年に延長します。
実際の税務調査が3年なのは、調査官のノルマによるものです。
調査官は調査件数のノルマがあります。
調査期間を5年にすると1件の税務調査に時間がかかってしまい、調査件数をこなせません。
また、3年間の調査で不正が発覚した場合、調査官は後から調査期間を5年に延長することが可能です。
調査件数をこなしたいという意向と、後から調査期間を延長すればいいや、という理由で3年の調査がほとんどです。
脱税行為などが見つかれば最大7年間の調査になることもあります。
≪無予告調査≫
任意調査の場合、原則、税務署からは事前通知があります。
しかし、任意調査でも事前に連絡がない「無予告調査」というものがあり、ある日突然調査官がオフィスや自宅に訪れます。
急に来た調査官を敷地内に入れた時点で税務調査はスタート。
「無予告調査」実施の理由としては法律上、事前通知すると税務調査が実施できない、若しくは無為にされる可能性が高いと判断された場合とされています。
ただこれはあくまで法律上。
すべての調査官が法律を正しく解釈しているわけではないのも事実です。
また、突然来てすぐに事前通知の内容を伝えるケースもあります。
税務署の職員がいきなり「調査で~す」ときた場合、出来る限りそのまま応じるのではなく、仕切り直しで後日改めて来てもらうのが無難です。
事務所内に入れてしまうと「調査を了承した」と認識され、税務調査が始まります。
事務所や自宅に調査官を入れたのが、仕事に全く関係していない家族でも、何も知らないアルバイトでも同じです。
事務所内や自宅敷地内に調査官が入った時点で税務調査なので、突然調査官が来た時は事務所の外、自宅敷地の外で対応します。
事務所内、自宅敷地内に入れてはいけません。
顧問税理士がいるのであれば、事務所の外、敷地の外で「顧問税理士に連絡するのでそのままお待ちください」と伝え、外で待たせて下さい。
顧問税理士がいないのであれば「今日は仕事の予定が入って税務調査を受けられない。来週の〇日とか〇日、来月の〇日とか・・・」とその場で調査日程を決定するのがいいです。
【強制調査】
裁判所の令状がある税務調査は強制調査と呼ばれます。
強制調査の場合は事前通知なく、いきなり来て裁判所の令状を読み上げてすぐに実施です。
国税局査察部(いわゆるマルサ)が担当しており、裁判所の令状を持っていきなり乗り込んできます。
強制調査は、犯罪の取り締まりを目的とした調査。
国税局査察部は納税に関する資料や証拠品押収の権限を持っているので、資料を勝手に持っていきます。
ニュースやドラマで段ボール箱を車にどんどん詰め込むアレですね。
強制調査で脱税行為が特定されれば検察庁に告発され、状況によっては刑事事件です。
脱税額1億円超で、かつ悪質な仮装隠蔽工作が想定される事案に限られます。
ドラマなどでは「マルサ」を描くことが多く、「税務調査がある=悪いことした人(犯罪者)」というイメージを持っている人もいます。
実際の税務調査で強制調査はほとんどなく、任意調査が主で、目的は「指導」です。
怒鳴り込みに来ることも、殴り込みに来ることも、事務所や自宅に乗り込んでくることもありません。
また、税務調査があるからといって必ずしも悪いことをしたわけではありません。
秋に多い!?税務調査の時期
税務調査は秋に多いと言われており、実際7月から12月が最盛期です。
それは税務署の事情である部分が大きいです。
税務署職員の1年を知ると税務調査が秋に多いことが分かります。
【税務署職員の1年】
市役所など公的機関は4月から翌年3月を事務年度としている所が多いです。
しかし、税務署は1月から3月は年末調整、確定申告のため1年で1番の繁忙期。
そこで、税務署の事務年度は7月から翌年6月で、7月10日付で人事異動が行われます。
・7月~8月
7月に税務署の人事異動があります。
人事異動に伴い、調査チームの再編が必要です。
異動があった人は前任者からの引き継ぎや、役職によっては周辺団体へのあいさつ回りをします。
7月~8月は人事異動にチーム再編後、引き継ぎやあいさつ回りをしているとすぐにお盆休みに突入します。
このためどこに調査に行くのか決める調査先の選定準備が中心です。
「どこにいこうかな~」をしている時期です。
・9月~12月
税務調査に行く先の決定は8月までに大体終わります。
9月からは税務調査のピーク時期です。
9月以降、基本的に長期休暇もないので、9月~12月の時期に調査官は一生懸命税務調査に回ります。
・1月~3月
お正月が明けると、一気に個人の確定申告モードに入ります。
調査官をはじめ、税務署の職員も税理士も多忙で税務調査の余裕はなく、1月~3月の税務調査はほとんどありません。
税務調査は重要なものや継続事案を除いて基本的には行われません。
・4月~6月
確定申告が終わり、落ち着いて税務調査ができる時期ではあります。
ただ、事業年度を持ち越して税務調査をしたくない、人事異動の可能性などの理由から複雑な税務調査はあまり行われません。
税務署職員の1年を見ると税務調査が秋に多い理由がよく分かります。
【税務調査の周期】
税務調査の時期として何年周期で税務調査が来るのか質問を受けることがあります。
本やインターネットで「個人事業主の税務調査は〇年に一回」とか「税務調査の確率は〇%」とかありますが、あまりあてになりません。
「65年ぶりの税務調査」というケースもあれば、「開業3年で税務調査」といったケースもあります。
以前の税務調査で「重加算税」が課されている場合は、税務調査の回数が増加します。
税務調査を自分で対応するには
税務調査を税理士に依頼せず、納税者自身で対応したい人もいるでしょう。
【税務調査は自分で対応可能?】
税務調査は納税者自身で対応は可能です。
顧問税理士がいない場合、事前通知は納税者本人が受けます。
- 実地調査を行う旨
- 調査対象となる税目
- 調査対象となる期間
調査対象の税目と期間を確認したら、調査対象期間の指示された税目に関する書類を準備します。
「この数字はどういう内容?」など調査官から聞かれたら、すぐに答えられるようにして、同時に根拠となる書類を提示できるよう準備しておきます。
税務調査当日は調査官からの質問には正直に答え、あいまいな回答は避けます。
質問されたことのみ答えるのもポイントです。
世間話から疑いが掛けられる可能性もありますので、聞かれたものだけ答えましょう。
税理士に依頼せず、自分で税務調査の対応をするのであればとにかく落ち着いた対応を心がけます。
「言った」「言わない」などの水掛け論に発展することもあるので、何かあったときのために証拠となるようなものを残すといいでしょう。
税理士に依頼せず、納税者自身で税務調査に対応するには注意も必要です。
上記にもありますが、税務調査で「重加算税」が課されると、今後の税務調査の回数が増加します。
「重加算税」は調査官にとっては査定ポイントのひとつ、出世への第一歩です。
そのため半ば強引に重加算税にしようとする調査官も。
わざと難しい専門用語を使って難癖をつけ、不正を作り上げでも重加算税を科そうとする調査官もいます。
すべてのメール履歴提出を要求するなど「叩けば何かホコリが出るだろう」といった犯罪捜査のような雑なやり方をする調査官もいます。
税理士に頼らず、納税者自身で税務調査に対応するのであれば注意しましょう。
【調査官は公務員!威圧的ではないはず】
調査官は公務員なので、納税者に対して親切に対応しなければならないことが前提にあります。
強面のおじさんが机に脚を掛けて高圧的な態度で質問をしてくるようなことは基本的にはありません。
優秀な調査官は物腰が柔らかく、丁寧で話しやすい雰囲気です。
税務調査も円滑に進めていくので、逆に余計なことをしゃべらないよう注意は必要。
基本的には市役所職員のような印象の調査官が多いです。
ただ、まれにドラマの影響か!?というくらい威圧的な態度の調査官もいます。
- 人の話しを最後まで聞かない(話しの途中で遮る)
- 挨拶しない
- 威圧的・高圧的な態度
- 納税者を馬鹿にした口調
公務員も人間なので、すべての調査官が善良ではないのも事実です。
仮に上記のような調査官の場合は税務署にクレームを入れます。
税務署にクレームを入れる時は根拠となるものを一緒に提出するといいでしょう。
最近では動画がすぐに撮影できるので、撮影したものと一緒に税務署に連絡して対処してもらいます。
税務調査で用意する書類はたくさん
税務調査が決まったら、用意する書類はたくさんあります。
まずは事前通知で告げられた調査期間の書類を準備しましょう。
書類を一式準備出来たら、調査対象期間の申告内容を見直します。
申告内容を見直し、明らかな誤りが見つかった場合は調査日までに修正申告をします。
調査日までに修正申告を提出すれば、修正後の申告書が調査対象です。
税務調査日前に修正申告をすると、調査官から「税務調査があったから修正申告しただろ!」と文句の電話があることもあります。
その場合は「税務調査の目的は指導ですよね?」と毅然とした態度で対応しましょう。
【一定期間の保存が義務付けられている帳簿や書類は用意して】
一定期間の保存が義務付けられている帳簿や書類は用意するのが無難です。
まれに確認のために期間外の資料提示が必要な場合もあります。
事前に用意しておくとスムーズに対応できます。
- 確定申告書の控え
- 決算書(貸借対照表、損益計算書)
- 帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)
- 預金通帳
- 請求書、納品書、領収書
- 棚卸表
- 従業員名簿、源泉徴収簿
法人の場合は登記簿や定款、株主総会議事録なども準備しておきましょう。
調査の状況によっては、取引先の個人情報提示を求められるケースがあります。
一方で医師や弁護士など一定の職業には守秘義務がありますし、職種によってはいくら調査官とはいえ、個人情報の開示をためらうでしょう。
実際に医師の税務調査でカルテが質問検査権の範囲かどうかを争った裁判例がいくつかあります。
結論として調査官がカルテや業務処理簿などを確認しなければ所得・税額を検証できないのであれば、たとえ守秘義務があったとしても開示しなければなりません。
逆にカルテや業務処理簿などを確認しなくても所得・税額の確認が立証できれば、開示する必要はありません。
その他、税務調査の一環として調査官がパソコンを触ろうとする場面もあるようですが、調査官にパソコンを触らせなければならない法律はないです。
「パソコンを触っていいですか?」と聞かれたら「必要なものがあればパソコン画面で見せます」「必要な書類は印刷して提出します」で大丈夫です。
また、調査官が帳簿などを探そうと、事務所の物品・備品を漁る人もいます。
調査官が物品・備品を勝手に触ることは許されていません。
「触っていいですか?」と聞かれたのに答えない、拒否せず指示に従った場合は「承諾」とみなされます。
毅然とした対応が必要です。
そもそも調査官に勝手にものを漁られる、パソコンを触られることがないように事前に書類の用意をしておきましょう。
【税務調査中に指示があればその書類も提出するよ】
税務調査中に指示があれば指示された書類を提出します。
前述しましたが、税務調査の対象期間でなくても、所得・税額確認のために書類を求められることがあります。
税務調査に向けて一定期間の保存が義務付けられている帳簿や書類を用意すると無難ですが、事前通知で指示された期間以外の書類提出は原則断ることが可能です。
しかし、調査官の求める理由が正当な理由であれば提出しなければなりません。
現金商売場合は調査日時点の現金残高を調べられることもあります。
税務調査はどんなことをする?内容やチェックポイント
税務調査は午前中に調査官が来て事業内容の確認からスタートするのが多いです。
出身学校から経歴、どのような経緯で個人事業主になったのかを聞かれることもあります。
その後、売上は振り込みなのか現金なのかなど帳簿の内容を確認していきます。
税務調査の内容と税務調査の流れ
【調査内容】
調査の内容は様々です。
多くの税務調査では事業内容を最初に確認されます。
【売上】
- 計上漏れがないか
- 計上時期に誤りがないか
- 売上を過少に申告していないか
【仕入】
- 架空仕入れがないか
- 計上時期に誤りがないか
【棚卸資産】
- 評価方法が正しいか
- 計上漏れがないか
- 実地棚卸が行われているか
帳簿や棚卸表をもとにチェックされ、事業内容によっては倉庫などを確認されることもあります。
【交際費】
家族や友人との飲食代など、事業と関係ない支出を交際費に計上していないか確認されます。
【人件費】
- 従業員は存在するのか
- 架空の人件費が計上されていないか
従業員名簿やタイムカードで確認されます。
【その他】
個人事業主の場合、家事按分や生活費・貯金についても聞かれます。
また、どの科目にしていいか分からないからすべて「雑費」とされている場合、雑費の内容を確認されます。
【税務調査当日の流れ】
■実地調査前
・税務署からの事前通知
- ①実地調査を行う旨
- ②調査対象となる税目
- ③調査対象となる期間
①~③を調査官から電話等で連絡があります。
顧問税理士がいる場合は顧問税理士に連絡がいきます。
・調査実施日の日程調整
調査実施日は調査官・納税者本人・税理士がいれば税理士の都合で、ある程度の調整が可能です。
・必要書類を揃える
顧問税理士がいる場合は調査前に税理士と相談して準備しましょう。
事前通知された調査対象期間分の資料提示を求められた場合は、原則断ることが可能。
ただし、調査対象期間分より前の資料等を確認しなければ、調査期間の所得・税額を確認できない場合は提示義務があります。
また、申告していない今現在も調査対象となる場合も。
特に現金商売の場合は調査日時点の現金残高を調べられることもあります。
■実地調査当日
前述しましたが、税務調査の場所は規定されていないのでオフィスや店舗、顧問税理士の事務所、貸会議でも問題ありません。
個人事業の場合、半日~1日、状況によっては2~3日の場合もあります。
調査で必要があれば、調査官が納税者の承諾を得て帳簿書類などを預かることがあります。
業務に必要な書類を税務署が預かることになれば、仕事に支障が出るので、重要な書類は事前にコピーしておく、コピーして渡すなどしましょう。
■税務署の指摘に対して回答
実地調査で調査官が帰ったら税務調査終了ではありません。
調査官は実地調査の終了からも指摘や質問をしてきます。
指摘や質問に対し、資料の提出や回答等やりとりが必要です。
税務調査にあたり、税理士に依頼した場合や、顧問税理士がいる場合は税理士が交渉を行います。
もし納税者自身で税務調査を受けたのであれば、納税者自身がやり取りをします。
実地調査終了後も追加で資料提示が必要な場合もありますので、調査官が帰ったからといって書類を片付けず、すぐに取り出せる状態にしておきましょう。
■調査結果
税務調査には「公正是認」「修正申告」「更正」という3パターンがあります。
- 「公正是認」は申告内容に問題はない
- 「修正申告」は税務署の指摘を認めて自分で申告内容を修正すること
- 「更正」税務署の指摘に対し、納税者が指摘を納得せず、修正申告を出さない時に税務署側が各税法の規定を根拠に行う課税処分
実地調査終了まで1カ月以上かかるのが一般的です。
意図的に不正行為をしていなければ、税務調査を過度に恐れる必要はありません。
申告内容の誤りを指摘されても、悪質なものでなければ罰せられることはなく、基本的には修正申告のみで済みます。
顧問税理士がいるのであれば、事前に必要書類の確認や税務調査の流れ、対処方法などについて打ち合わせをしておきましょう。
顧問税理士は事業内容や経理・納税の状況を把握しており、税務調査に立ち会う機会も多いので、アドバイスを受けられます。
チェックされるポイントは?税務調査で抑えるポイント
個人事業主の場合、チェックされるポイントは、売上、外注費、交際費、雑費、家事按分、生活・貯金の関連性がほとんどです。
もちろん業種によって違いはあり、聞かれる質問は様々です。
税務調査では正当な理由がないのに帳簿等の提示・提出の求めに応じなければ罰則
税務調査では正当な理由がないのに帳簿等の提示・提出の求めに応じなければ罰則があります。
調査官が質問したことに対して何も答えない、嘘を答えた場合は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
黙秘権も認められていません。
調査官からの質問には応じなければならず、「任意」だからといって断ることもできません。
税務調査から逃げようとする人もいますが、逃げられないと思ってください。
税務調査で指摘されたときの対応は?
税務調査の結果で指摘された場合、ほとんどの場合は修正申告をします。
修正申告は過去に提出した申告書を、正しい内容に修正する手続きです。
ずっと申告をしておらず、税務調査が入った場合は期限後申告をします。
申告しない状態を長期間続けていて、税務調査によって所得隠しなどの指摘を受けた場合は、7年まで遡って申告を求められる場合も。
悪意のない無申告である場合、遡れる期間は5年です。
【状況によって過少申告加算税、延滞税、無申告加算税の納付】
税務調査で指摘を受けて修正申告や期限後申告をした場合、不足していた税額、延滞税、過少申告加算税を納めます。
悪質な脱税とされると、重加算税が課せられる場合もあります。
税務調査で指摘があったのであれば、これらの税金を納付して税務調査が終了です。
どうして私に税務調査?
税務調査の連絡が入って、最初に思うのは「なぜ私に税務調査?」という疑問でしょう。
ずっと申告をしていない人や、故意に脱税していない人であれば当然の疑問です。
税務調査を受けやすいと言われる業種があります。
- 建設業
- バーやクラブ
- パチンコ業
- 運送業
- 飲食店(酒場など)
- 自動車修理業
その他個人事業主の場合でも売上や利益状況によっては、税務調査を受けやすいと言われています。
- 年間売上900万円程度の年が数年続いている
- 急激に売上が増えた
- 利益率の変動が激しい
- 現金での取引が多い
- 総合的に見て所得が少なすぎる
- 副業を赤字にして還付受けている
- 税額が大きい
年間売上が1000万円を超えると消費税を納める必要があるため、年間売上を900万円程度に調整して申告しているケースもよくあるようです。
そのため、年間売上900万円以上~1000万円未満が続いていると、売上を調整している可能性を以って、税務調査が入りやすいと言われています。
これ以外にも課税対象額が1000万円を超えると税務調査に入られやすいとは言われていますが、1000万円以下でも税務調査はあります。
税務調査は無作為ではない
税務調査先は無作為で選ばれているわけではありません。
もちろん誰かが白羽の矢を打って当たった家に行くような神事で決められているわけでもありません。
KSK(国税総合管理システム)でデジタル選定されています。
KSKには申告内容の情報が入っており、決算書や売上・所得状況など数字が分かります。
KSKが出した候補の中から調査官は実際にどこへ税務調査に行くのか決めるのです。
もちろんKSKで納税者の申告内容が青色申告なのか、白色申告なのか、税理士が関与しているのか、していないのかも分かります。
ただ青色申告、白色申告、税理士関与の有無が理由で税務調査が入る、入らないかの影響は大きくありません。
調査官の中には「税理士関与がないからラク~」と選ぶ人もいるようではあります。
税務申告していない人は税務調査が入りやすい?
税務申告していない人は税務調査が入りやすいとは言われています。
所得税などの申告していない人は「無申告」と呼ばれており、税務署は私たちの想像以上に「無申告」をKSKで把握しています。
国税局(税務署TOP)は「そもそも申告すらしていない奴は徹底的に徴収する」とした対応です。
国税局は各税務署に「○○税務署は無申告の実態解明調査を年間〇件やってください。」と具体的な件数の指示を出し、徴収を徹底しようと力を入れています。
無申告の人は税務調査がある可能性が高く、要注意です。
売上が大きく増加している人は税務調査が入りやすい?
売上が大きく増加している人、売上が急激に伸びた人は税務調査が入りやすいとは言われています。
他にも経費の乱高下が激しいところも何らかのミスがあるのではないかと疑われ、税務調査が入りやすいとされています。
ただ、売上に関しては業種によって売上が大きい年と小さい年がある場合も。
売上の乱高下が激しい業種の場合は日頃申告する際に注意が必要です。
申告内容に不審な点があれば税務調査が入りやすい?
申告内容に不審な点があれば税務調査が入りやすいのは事実です。
もちろん申告内容の単純な計算ミスでも税務調査になることも。
売上金額は数年変わっていないが、消耗品の割合が異常に高くなった、低くなった等で税務調査が入ることもあります。
経費の勘定科目を変えたりすると、税務調査が入りやすくなるとも言われています。
税務調査は自分で対応できる?
前述しましたが、税務調査の対応は納税者本人でできます。
ただ、調査官は大きな組織の人間で、組織から言われたノルマ件数は必ず達成しなければなりません。
追徴課税額が多いと優秀とされ、少額であっても重加算税を取ると出世につながります。
出世志向の強い調査官であれば、少しでも多くの追徴課税を取り、なにが何でも重加算税を取ろうと必死になるでしょう。
また、すべての調査官が善良というわけではありません。
法律を知らないからといって多額の税額を吹っ掛けられる可能性も、不当な重加算税が課せられる可能性もあります。
この可能性も踏まえ、税理士に依頼するか自分で対応するか選ぶといいでしょう。
税理士は必要?税務調査と税理士
調査官は税理士に関与して欲しくはないのでしょうか。
調査官にもよりますが、調査官にとって税理士は嫌な面と頼りになる面があります。
【調査官にとって税理士が嫌な側面】
- 税理士は納税者側の立場
納税者に知恵をつけさせるし、調査官の出世ボーナスポイント獲得の妨げになる - 状況によっては調査を進めづらい
- 法律や申し合わせ事項などに反した行動をとると、故意でなくても指摘や交渉材料にされる
【調査官にとって税理士が頼りになる側面】
- 専門用語などは共通理解になる。内容説明や確認がすぐとれる
- 指摘事項について反論を示す場合、反論材料を書面で提供してくれるので、税務署内で上司に調査内容説明するときに立ち回り安い
- 追徴税額や不正が発生した場合、納税者に説明してくれる
- 会計処理について考え方を示してくれる
- 納税の資金計画を納税者に示してくれる
出世重視の調査官は、ボーナスポイントを考えると税理士はいないでほしいというのが本音でしょう。
税務調査先を選ぶ際も税理士関与がないところを選ぶ調査官もいるようです。
また、調査官は何も分からない納税者に適当な理由付けて、税金をむしり取ったり、重加算税を課したりできません。
税理士はいない方がいい、税理士に本領発揮してほしくない、のが本音ではないでしょうか。
税理士の中には「すべては税務署の仰せのままに」という人もいるので、関与税理士が税務署の指示に従うような税理士であることを願う人もいるようです。
ただ、税金や法律を全く知らない納税者に税金の説明をするのは難しく、場合によっては時間がかかります。
納税者に修正内容や指摘事項を税理士がやってくれるのは、仕事が減って楽な部分もあります。
もし私に税務調査が入ったら
もし自分に税務調査が入ったら、顧問税理士がいればすぐに顧問税理士に相談しましょう。
- 税務調査を納税者自身ですべて対応するのか
- 税務調査に対応している税理士に依頼するのか
- 税務調査に対応している税理士に相談して、内容によって税理士に依頼するか納税者自身で対応するのか判断するのか
【税務調査に立ち会いたくない】
税務調査に立ち会いたくない人もいるでしょうが、原則税務調査には納税者本人の立ち合いは必要。
確定申告の作成を税理士や配偶者等が行っていたとしても税務調査では本人の聞き取りが必要だからです。
納税者から税務代理の依頼を受けた税理士が税務代理権限証書を税務署に提出していれば、税理士の立ち合いは可能です。
ただ、税理士のみが対応すればいいわけではなく、納税者の同席も求められます。
税務調査に関する事前通知の連絡も原則納税者本人に対して行われます。
【そもそも税務調査イヤ】
「わーい!税務調査だーうれしい♡」という人はいないでしょう。
これすれば税務調査絶対ない、という方法は残念ながらありません。
この記事の執筆者
おまかせTAX/檜垣昌幸税理士事務所
代表税理士 檜垣昌幸
会計ソフトの販売、自動車販売会社、税理士事務所を経て2018年に税理士として独立。
個人・法人の税務を中心に、無申告や税務調査の対応や補助金や融資の申請支援も積極的に行っている。
※本記事の投稿時点(2022年12月3日)の法令・情報に基づいて作成しました。
その後の法改正等に対応していない可能性がありますので予めご了承ください。
※万が一掲載内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当方は一切責任を負いません。